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写真家

川内倫子

日本

滋賀県東近江市出身

Rinko Kawauchi artist portrait
川内倫子©️Arnoldas Kubilius

川内倫子(1972年生まれ)は、1960年代末から70年代初頭にかけてのプロヴォーク時代に確立された暗く、荒っぽいスタイルで制作する写真家とは対照的により抑制の効いた、叙情的な美学を20年以上に渡って追求してきた。川内のレンズを通すと、ごくありふれたものや出来事が多くの場合、日常生活における儚さ、壊れやすさ、不吉さまでをも際立たせる崇高なイメージとなる。

川内は滋賀県大津市の成安造形大学で、グラフィックデザインを専攻し、その一環として写真を学び、1993年の卒業後、広告制作会社に就職した。その後数年のうちに川内はアートの分野に目を向けるようになり、2001年には『うたたね』『花火』、『花子』という写真集を三作同時に刊行、その後、権威ある木村伊兵衛賞を受賞するなど、急速に国際的な認知度を高めていった。これらの写真集に文章はほぼ皆無で、写真イメージがページを越えて共鳴し合う力でそれぞれのナラティブ(物語)を作り上げている。窓の外へと吹かれるカーテン、流しの排水口に集まる洗剤の泡、縄跳びをする子どもといった日常的なシーンは、この世界における非常に私的でふたつとない体験を示すとともに、ひたすら対象をみつめるというひたむきな実践のあらわれのように思われる。川内のトレードマークともなった『うたたね』の抑制された色彩は、夢のような、空気のような雰囲気を醸し出し、彼女の作品に飾らない謎めいた構図を引き立てている。同様に、川内は『花火』で夜空に花開く花火を半ば抽象的なスケッチのように表現しており、形態よりもさまざまな光の効果を捉えようとしているように見受けられる。

川内の詩的なイメージはその後のシリーズにおいても展開されていく。2005年に刊行された『the eyes, the ears』は、それまでの作品群に見られるような静謐な写真で構成されているが、それぞれの作品には、写真と同様じくさりげない、アーティストの言葉で綴られた短い文章が添えられている。2013年のプロジェクト、『あめつち』は、さらに抽象的な領域へと向かう。川内が最初は夢で見た、野焼きの風景を中心に位置づけ、その過程を捉えている。野焼きとは、計画的に野山を焼き払うことであり、何世紀にも渡って熊本県阿蘇で毎年行われてきた。そうすることで、草を食む家畜のために草原を維持し、よみがえらせるのだ。野焼きが最終的にもたらすのは再生だが、川内が撮影した燃える丘は間違いなく郷愁を誘う。『あめつち』は『うたたね』の静けさとの決別のようにみなされるかもしれないが、どちらにも共通して見られるのは、川内が「循環や人々の行っているサイクル」と呼ぶものに対する、彼女の尽きることない関心である。[1]

マット・クラック 著

松浦直美 訳

  1. 「川内倫子が世の中の小さな謎を考察する 」 (ビデオ・インタビュー)2016年3月、サンフランシスコ近代美術館
    https://www.sfmoma.org/watch/rinko-kawauchi-contemplates-small-mysteries-life/
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川内倫子 参考文献

インタビュー

所蔵品 川内倫子

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    September 12–December 20, 2009

    Drawn entirely from SFMOMA’s collection, Photography Now showcases pictures by nearly 30 contemporary artists working in China, Japan, and Korea. Documentary work from China depicts a shifting culture, in particular rapid urbanization and the effects of industrialization on society. Inspired by Robert Frank, Luo Dan journeyed from Shanghai to Tibet, making pictures that explore dramatic economic changes across China. In Japan, Rinko Kawauchi makes lyrical pictures that focus on the poetic details of daily life, and Yasumasa Morimura examines the nature of cultural identity through appropriation. Korean photographer Bohnchang Koo’s minimal photographs of ordinary architectural elements reflect upon the passage of time.

    This exhibition is organized by the San Francisco Museum of Modern Art and is generously supported by the E. Rhodes and Leona B. Carpenter Foundation.

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