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写真家

土田ヒロミ

日本

福井県南越前町出身

Portrait of artist sitting
土田ヒロミ

土田ヒロミ(1939年生まれ)の写真集『俗神』(1976年)は、田んぼを見下ろす林の中で飲み食いしながら休憩する人々を写した一連のショットで始まる。すでにでき上がっている農夫たちの酔いがさらに深まるにつれ、彼らは地面を転げ回り、互いに冗談を言い合い、カメラに向かって身振りをしてみせる。モノクロであるという点においては、当時の日本で主流だったドキュメンタリー写真に属するが、このシリーズに限らず、土田の作品には一貫して遊び心があり、それゆえにそれまでの写真家の作品とは一線を画している。

商業写真家としてスタートした土田は、1964年から1966年まで、横浜市日吉にある東京綜合写真専門学校で学び、著名な評論家の重森弘淹から写真表現における概念的な方法を教わった。「俗神」は、雑誌『カメラ毎日』に何号にも渡って掲載された土田初の大規模シリーズで、のちに書籍化されることとなった。この事業は、1970年代始めから半ばにかけて、土田が日本国内を旅して回り、大都市からの資本流入によっていまだ均質化されていない暮らしを探し求めて撮りためたものだ。中にはかつて歓楽街であった東京の浅草で撮影された写真もあるが、殆どは辺鄙な場所で撮影されたものだ。旅行産業が地方を侵食する様子を捉えた作品群もある。旅行産業が地方を侵食する様子を捉えた作品群もある。旅行産業は、〈都市〉と〈地方〉の差異をなくす一つの要因と言えるだろう。しかし、土田が注目したのは風景というよりは、その土地の文化や人々だった。たとえば、青森県で撮影された写真のうち二点には、地域に昔から伝わる衣装に身を包んだ女性たちと、歌を披露する歌手が捉えられている。どちらの写真も人物の服装や表情に重点を置いており、特に歌い手の顔には抑えられた中にも強い感情がこもっているのが見てとれる。

「俗神」シリーズでは、間もなく都会風の生活様式に飲み込まれていく地方の人々が取り上げられているが、次の大規模シリーズを書籍化した『砂を数える』(1990年)で、土田は大都市の住民にカメラを向けている。この写真集は、点在する人のスナップショットに始まるが、フレームに写り込む人物はどんどん増えていき、1989年の昭和天皇崩御の際に皇居前に集まった群衆の写真に終わる。何千人もの男女がひしめき合い、ここで写真集のタイトルの皮肉めいた意味合いが明らかになる。人々は砂粒のごとく、とてつもなく大きな総体の微小な部分でしかないというわけだ。土田はまた、歴史を視野に入れて都市を捉えてきた。広島とベルリンで、それぞれ1973年、1983年から作品を制作しており、多くの場合、何年も経ってから以前とまったく同じ場所に戻り、改めて撮影するという方法を取っている。

1990年代以降は、「砂を数える」シリーズをカラー写真で展開し、日本国内の人気観光スポットで群衆を撮影した。これらの比較的新しい作品で、土田はデジタル加工という新技術を使い、こしゃくにもどの写真にも自分自身の姿を加えている。そのため、写真には『ウォーリーをさがせ!』的なおどけた雰囲気が漂っており、それは土田が作品中に写っている人々と自分は何ら変わりない存在であると言っているかのようだ。土田はほかの作品群でもデジタル技術を実験的に使っている。1988年からほぼ毎日自分の写真を撮っているが、土田の活動は、昨今の大流行にかなり先駆けたもので、2008年にはこれらの写真からコマ撮りビデオ(タイムラプス)を制作している。このようにして、土田はユーモアのセンスと遊び心を盛り込んで、社会現象を観察し続けているのだ。

ダニエル・アビー 著

松浦直美 訳

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土田ヒロミ 参考文献

インタビュー

所蔵品 土田ヒロミ

エッセイとアーティストトーク

  • アメリカと日本の写真の歴史をふり返ってみると、1950年代の終わりから60年代初頭は驚くほど実り多き変遷期だったことがわかる。この時期以前にも日本には写真の歴史は古く存在したが、第二次世界大戦後のアメリカとの関係が写真という媒体を日本特有に、かつ幅広く再考させるきっかけとなった。それは古典的な報道写真や戦前の耽美主義への反動により、より個人的で表現豊かな写真が支持されたと言ってもいい。1970年代にアメリカで開催された重要な写真展はこの移り変わりに注目し、日本写真の新たな潮流に焦点を当てただけではなく、日本の写真家と日本の写真に興味を抱いたアメリカ人との意義深い関係も浮き彫りにした。 1970年代になると、戦後の経済的苦難から完全に回復した日本は、1980年代の「バブル経済」へと繋がる繁栄期を経験していた。豊富な時間と海外旅行に対する制限の解除から、若い世代は日本を出て海外、多くはアメリカへと出かけた。その中にはアメリカを頻繁に訪れた細江英公(彼は流暢な英語を話し、それは大変役に立った)、アメリカに4年間在住しダイアン・アーバスに学んだ奈良原一高、1962年からアメリカに住み作品制作を行っていたケン・オハラ(小原健)、そしてヨーロッパやアジア大陸を旅した川田喜久治、北島敬三、と中平卓馬などといった写真家たちがいた。この時期には、多くのアーティストがアメリカとヨーロッパに数年にわたって滞在したが、写真家たちもその例に漏れなかった。当時、日本の写真家たちが関心を持っていた事象と、その事象への取り組み方は、ニューヨーク近代美術館(以下、MoMA)が主催し、1956年に日本に巡回した画期的な展覧会「ザ・ファミリー・オブ・マン」(人間家族)展に対する反応だったと言える。[1] 展覧会は68カ国で作成された503点の写真—大部分がジャーナリスティックな作品—で構成され、その目的はグローバルコミュニティとしての意識を形成し、核時代に戦争を起こすことの危険さを注意喚起することにあった(図1)。MoMAの写真部門のカリスマ的なディレクター、エドワード・スタイケンは、日本に巡回するこの展覧会の手助けを、MoMAで作品を展示したことのある旧知の石元泰博に依頼した。結果的に石元の同展への関与は大変小さなものとなったが、彼は日本の写真が新しい表現へと移行する上で中心的な存在となった。[2]
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    September 12–December 20, 2009

    Drawn entirely from SFMOMA’s collection, Photography Now showcases pictures by nearly 30 contemporary artists working in China, Japan, and Korea. Documentary work from China depicts a shifting culture, in particular rapid urbanization and the effects of industrialization on society. Inspired by Robert Frank, Luo Dan journeyed from Shanghai to Tibet, making pictures that explore dramatic economic changes across China. In Japan, Rinko Kawauchi makes lyrical pictures that focus on the poetic details of daily life, and Yasumasa Morimura examines the nature of cultural identity through appropriation. Korean photographer Bohnchang Koo’s minimal photographs of ordinary architectural elements reflect upon the passage of time.

    This exhibition is organized by the San Francisco Museum of Modern Art and is generously supported by the E. Rhodes and Leona B. Carpenter Foundation.

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他のアーティスト

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